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仙台高等裁判所 昭和28年(ネ)428号 判決

控訴人 原告 佐々木平助

訴訟代理人 菅原勇

被控訴人 被告 一関保健所長 奥山亀美寿

訴訟代理人 岩手県事務吏員 田沢文雄 外一名

主文

原判決を取消す。

控訴人の本件訴を却下する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す、被控訴人が昭和二十七年九月九日附岩手県指令関健保第一、六二八号を以て訴外小野泰道に対し、一関市字深町三十三番地の二所在の営業施設につきなした飲食店営業許可を取消す、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

証拠として、控訴代理人は甲第一乃至四号証を提出し、原審証人星源造の証言を援用し、乙第二号証の二及び三は公証の部分の成立のみを認めその余は不知、他の乙各号証の成立を認める、乙第一号証の四、第四号証の三及び四を利益に援用すると述べた。被控訴代理人は乙第一号証の一乃至四、第二号証の一乃至三、第三号証の一乃至五、第四号証の一乃至四を提出し甲号証全部の成立を(第一号証は原本の存在をも)認めると述べた。

理由

控訴人の本件訴の適否につき審按するに、控訴人は、被控訴人の訴外小野泰道に対する昭和二十七年九月九日附岩手県指令関健保第一、六二八号を以てした飲食店営業許可は、右許可の対象となつた営業施設について泰道に何等管理使用の権限がないものであることを看過した違法があるばかりでなく該施設に対する控訴人の使用権を侵害するもので違法な行政処分であるからこれが取消しを求めるというのである。

元来飲食店営業許可は食品衛生法第一条の掲げる目的に則つた公衆衛生の見地から一般的に禁止されている飲食店営業等に関し、当該施設を使用して飲食店営業をすることが公衆衛生上支障がないと認められる特定の場合にその禁止を解除し適法に飲食店営業をすることの自由を回復せしめるため同法第二十一条に基いて為される一種の警察処分であつてこれにより新に権利を設定し又は既に認められた自由を制限したり剥奪する性質のものでないことは正に原判決の説示するとおりである。

而して本件営業許可により控訴人は従来自分が訴外小野泰道から賃借していた営業施設の使用権を侵害されたと主張するが、右営業許可は前述の如き性質の行政処分であつてその営業施設の上に設定された私法上の権利関係とは本来何の関りもないものである。営業許可自体がその施設に関して新しい私法上の権利関係を作出するものでもなければ又従前そこにあつた私法上の権利関係になんらの消長を来すものでもない。営業許可を受けた者が営業施設を使用するに当りその施設が従来他人の賃借に係るものであればその賃貸借契約を解除しなければ自己においてこれが使用を為し得ないのであるから、控訴人の主張する如く本件営業施設について控訴人が従来私法上の使用しうべき権利関係を設定していたのであれば本件許可があつたからと云つてその許可により直に右私法上の権利関係が侵害されるというようなことはあり得ない。仮に本件許可処分に基ずく泰道の営業実施が控訴人の従前の営業を継続出来ない立場に陥れるとしても、それは、本件許可処分自体の効力ではなくいわば派生的な事実上の結果に過ぎないのであつて、たとえ処分官庁がこのような結果を予見したとしても許可処分の法律上の性質や効力に差異をもたらすものではない。

要するに、本件許可処分自体はなんら控訴人の主張するような権利侵害を惹起するものではないのである。

ところで行政事件訴訟特例法第一条に基き裁判所に対して行政処分の取消しを求め得るのは当該行政処分が私人の権利を侵害した違法なものに限られるものなるところ、本件許可処分によつて控訴人はなんらの権利をも侵害されるものでないことは既に説示したとおりであるから控訴人の本件訴は不適法であつて却下を免れない。

従つてこれと異る趣旨に出た原判決を取消し民事訴訟法第三百八十六条、第九十六条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長判事 板垣市太郎 判事 檀崎喜作 判事 沼尻芳孝)

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